岐阜薬科大学
医療薬剤学大講座 臨床薬剤学研究室
Laboratory of Clinical Pharmaceutics, Gifu Pharmaceutical University

研究内容

1.糖尿病病態の発症・進展における抗酸化酵素発現変動の意義
 本研究室では,種々の病態の発症・進展と酸化ストレスとの関連性について,抗酸化酵素の発現制御という観点から研究を進めてきた.抗酸化酵素であるsuperoxide dismutase(SOD)の内,細胞外に局在する唯一のアイソザイムであるextracellular-SOD (EC-SOD:SOD3) に着目し,その発見者であるスウェーデンのMarklund博士に師事し研究を開始した. 生化学的研究からEC-SODの構造・機能相関,血管系での存在様式を明らかにし,臨床化学的研究からEC-SODの微量定量法 (ELISA) を確立し,血漿や尿中に存在する本酵素の測定が慢性糸球体性腎炎や糖尿病性腎炎の診断に有用であることを報告した.また,EC-SOD遺伝子の一塩基置換 (SNP) が本酵素の生化学的性質,生体内局在性を大きく変動させ,上記の疾患の増悪因子となっていることを発見した.種々のin vivoモデル,in vitroモデルを用いて本酵素が血管内皮細胞表面に局在して血管系を酸化ストレスから防御していることも明らかにしてきた.最近は糖尿病の病態解明や治療薬探索研究を続けており, インスリン抵抗性病態におけるEC-SODの転写制御,糖尿病性腎症モデルや脂肪細胞の分化肥大化過程でのEC-SOD発現の変動とその調節メカニズム(サイトカインやMAP kinase系の関与)について明らかにしている.糖尿病三大合併症の一つである糖尿病網膜症は日本における中途失明原因疾患の第2位を占め社会的に大きな問題となっている. 長期間の高血糖状態に起因する酸化ストレスや小胞体ストレスが網膜細小血管を障害することにより本病態が発症・進展することが知られている. 網膜血管系を構成する細胞の内,ペリサイトは酸化ストレスに弱いとされてきたが,本細胞はEC-SOD発現量が低いうえにストレスに敏感でさらにEC-SOD発現が低下することを明らかにした. またストレスは血液網膜関門の透過性を亢進するためEC-SODの網膜血管系での存在様式を変化させることが網膜の対酸化ストレス脆弱性に繋がることを示唆する結果を得ている.

足立研究内容図

2.虚血性脳血管障害時に生じる神経細胞死の分子機構の解明 ~亜鉛シグナルの意義~
中高年で発症頻度が増す脳卒中は日本における死亡原因の第3位であるが、一命を取り留めたとしても寝たきりになるなど重篤な後遺症を伴うことが多く、 患者のQOLや医療費増加の観点から大きな問題となっている。しかし、脳卒中の大部分を占める脳梗塞で認められる虚血性神経障害の分子機構は未だ十分に解明されていない。 脳梗塞の病巣ではアポトーシス関連分子の活性化が認められることから、虚血時の神経細胞死のプロセスにはアポトーシスの関与が示唆されている。 虚血脳におけるアポトーシスのトリガーとして活性酸素やカルシウム(Ca2+)などが考えられてきたが、これらの関与だけでは虚血時の細胞死を十分に説明できない。 亜鉛(Zn2+)は脳内に豊富に存在する金属イオンであるが、脳内Zn2+の生理的な意義は不明な点が多い。しかし、近年、脳内Zn2+の恒常性破綻が虚血性神経細胞死の進展に関与していることが報告され、 虚血時のZn2+の挙動変化に興味が持たれている。また、Zn2+は神経系や免疫系においてCa2+のようなシグナル伝達分子として作用すること(Znシグナル)が明らかとなり、 シグナル伝達分子としてのZn2+の作用が注目されている。虚血時にZn2+が神経終末から大量に放出されること、高濃度のZn2+が神経細胞死を惹起することから、 細胞内に流入したZn2+により活性化される細胞内シグナルがアポトーシスを惹起させると考えられる。 現在、アポトーシスの実行タンパク質であるBcl2ファミリーの発現に対するZn2+の作用についてはほとんど明らかになっていない。 そこで、我々はBcl2ファミリーの中で特にアポトーシス促進的に作用するサブファミリーBH3-onlyタンパク質に着目し、Zn2+と神経細胞死の関連について検討を進めてきた。 その結果、BH3-onlyタンパク質のPUMAの発現がZn2+により亢進すること、Zn2+によるPUMAの発現にがん抑制遺伝子p53が関与していることを明らかにした。 現在、他のBH3-onlyタンパク質の発現調節機構について検討している。今後、虚血により惹起される神経細胞死におけるZnシグナルの意義について明らかにしていきたいと考えている。

原研究内容図


3.動脈硬化症発症過程における抗酸化酵素の発現制御機構
動脈硬化症は、酸化ストレスをはじめ種々のストレスにより惹起される血管系の慢性炎症性疾患であり、 現在日本国民の死亡原因の上位を占める心血管系疾患ならびに脳血管系疾患の基礎疾患であることから、その社会的対策は急務である。 動脈硬化症の発症要因として、①内皮細胞の活性化、②単球の内皮細胞への接着・浸潤、③単球のマクロファージへの分化・泡沫化ならびに ④血管平滑筋の異常増殖・遊走など血管系を構成している種々の細胞間のクロストーク機構が挙げられる。近年、動脈硬化症の予防対策として、 単球由来マクロファージを焦点とした研究が進められており、マクロファージ由来の炎症性サイトカイン (tumor necrosis factor (TNF)-a、interleukin (IL)) ならびに細胞外マトリックスの分解に関与するmatrix metalloproteinase (MMP) などの向動脈硬化因子の産生抑制をターゲットとした研究が報告されている。 抗酸化酵素であるEC-SODは、単球ならびにマクロファージにもその存在が認められているが、単球系細胞のマクロファージへの分化過程におけるその発現変動の詳細は解明されていない。 そこで、in vitro実験系を用いて、単球系細胞のマクロファージへの分化過程におけるEC-SOD発現量の変動とその調節機構の詳細を検討した。 単球系細胞分化過程において、EC-SOD発現量が減少すること、ならびにその発現調節機構に活性酸素種 (ROS)、mitogen-activated protein kinase (MAPK) の関与が認められた。 EC-SODは、向動脈硬化作用を有するlow density lipoprotein (LDL) の酸化修飾抑制作用を有することが報告されているため、マクロファージへの分化過程におけるEC-SOD発現量の低下は、 血管系における酸化ストレスに対する抵抗性の減弱を来たし、さらには動脈硬化症の増悪への関与が示唆された。現在、得られた知見をもとに新規の動脈硬化症予防薬の探索を行っている。


神谷研究内容図
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